
1.はじめに:2026年衆院選に中国系の影響工作の可能性?
2026年衆院選期間中、X上で中国系とみられる約3000件規模のアカウント群が協調的に高市首相批判を展開した可能性が、読売新聞により報じられました。
「知らないうちに、自分の考えが誰かに書き換えられていたら?」
そんなSFのような話が、2026年の今、現実の脅威として私たちの生活に忍び寄っているかもしれません。
読売新聞オンライン(2026年02月23日 05:00配信)
記事概要
衆院選公示(2026年1月27日)の約1週間前から、X上で約3000件規模のアカウント群が協調的に高市首相や日本政策を批判する投稿・拡散を行っていた。SNS分析会社「ジャパン・ネクサス・インテリジェンス」の調査で判明し、アカウントの規則性や翻訳痕跡、不自然な日本語、中国関連画像の使用などから、中国系の影響工作の可能性が指摘されている。目的は日本社会の分断誘発と国際的評価低下とみられる。活動は継続中である。
現実と陰謀論の狭間で考える
昭和の終わりごろから、「日本はスパイ天国だ」と言われてきました。
1980年代以降、日本に外国のスパイを取り締まる一般法(いわゆるスパイ防止法)が存在しないことを懸念する文脈で、長年にわたり使われ続けてきた表現です。
当時の私は「それって陰謀論かな?でも私の生活には関係ないよね」なんて思っていたと記憶しています。
今回のニュースは、SNS分析会社による調査結果での指摘に基づく内容です。
企業責任から見ても、全くの荒唐無稽な話でもないでしょうが、鵜呑みにするのもまた、悩ましいところです。
SNS時代においては、偏向報道、フェイクニュース、悪性ナラティブに続き、諸外国等の工作まで私達一般人は気にしなくてはいけないのでしょうか。
諸外国による影響工作が現実のものだと仮定した場合、それはどのようなものなのか、そして私達はどのような対策ができるのかを考えてみたいと思います。
2.影響工作とは

今回の2026年衆院選で報じられた事例は、決して特殊なケースではありません。
近年、各国でAIを用いた影響工作が確認されており、日本も例外ではないと考えられます。
①概要
影響工作(Influence Operation)とは、国家や組織がターゲットとなる人々の認識や意思決定、行動を自分たちに都合の良い方向へ変えさせるために行う組織的な活動を指します。
現代ではSNSやAIなどのデジタル技術を駆使した「デジタル影響工作」が主流となっており、単なる宣伝(プロパガンダ)を超えた高度な情報戦として、民主主義社会への深刻な脅威とみなされています。
②主な特徴と手法
・認知の操作
事実を歪める「偽情報(ディスインフォメーション)」の流布だけでなく、特定の物語(ナラティブ)を強調して相手の現実認識そのものを書き換えます。
・SNSの悪用
大量のアカウント(ボットや工作員)を使い、あたかも世論が特定方向に傾いているかのように見せかけます。
・社会の分断
ターゲット国内の対立点(政治、外交、環境問題など)を煽り、内紛や不信感を助長させます。
・ステルス性
発信源を偽装したり、現地の協力者を利用したりするため、誰が背後で操っているか判別しにくいのが特徴です。
③最近の事例(日本関連)
・2026年 衆議院選挙
特定の政治家に対する「反高市工作」など、中国系とされる多数のアカウントがAI画像を用いて投稿・拡散を行った疑いが報じられています。
・処理水放出問題
福島第一原発の処理水放出に反対する署名活動やSNS投稿において、一部報道では、中国系とされるネットワークによる世論形成の動きが指摘されたこともあります。
・日本批判の拡散
X(旧Twitter)上で日本を批判するアカウント群が確認されるなど、継続的な活動がみられます。
現在、日本政府も「外国勢力による影響工作」を安全保障上の課題として捉え、内閣官房のポータルサイト設置やAI技術を用いた対策体制の強化を進めています。
④私の所感:不自然さの消滅を懸念
以前は広告代理店や著名人を通じたマスメディア戦略が一般的だったのでしょうが、SNS時代の到来とAI技術の発展により、「影響工作の低コスト化」が進んでいると思われます。
つまり一個人ですら、ある程度の規模の影響工作が可能であり、いわゆる闇バイトにも類似の内容があるのかもしれません。
私が最も懸念するのはAIの進歩による「文脈の不自然さの消滅」です。
例えば2026年衆院選におけるSNS上の「明らかなヘイトコメント」は私もいくらか分別できます。
「これは〇〇党への投票誘導だな」とか「◯国の利益になる発言だな」と受け取れます。
人間の血肉のこもった言葉は、「良くも悪くも刺激的」です。
しかし、AIが進歩すると「私が賛同できる自然な文脈の中に僅かなズレを生じさせ、私が丸ごと同意してしまうかもしれない」といった懸念が生まれます。
それは、ゆっくりとした洗脳であり、サブリミナル効果の一種とも言えるかもしれません。
従来の偽情報は「嘘の事実」を並べるものでした。しかし、最新の生成AIは、私たちの日常的な悩みや、社会への不安に寄り添うような「共感の文脈」を模倣しつつあります。
ターゲットに合わせたパーソナライズ(個別化)が行われれば、それはもはや「外部からの攻撃」ではなく、自分自身の「内なる声」と区別がつかなくなる。これこそが、デジタル時代のステルス型影響工作の真の恐ろしさではないでしょうか。
果たして私達はそれに抗うすべを持つことが出来るのでしょうか?
そして今まさにその影響を受けていないと言えるでしょうか?
3.おわりに:私達ができる対策とは

①個人の対策
影響工作が高度化し、AIにより「自然な文脈の中に僅かなズレ」を忍び込ませる時代が到来しつつあるならば、完全な防御は困難でしょう。しかし、私たち一人ひとりが「情報に対する免疫」を高めることで、影響を最小限に抑え、民主主義の基盤を守ることが可能なのかもしれません。
主な個人レベルの対策として、以下の点を日常的に実践するのもありでしょう。
・情報の「一時停止」と多角的検証
感情を強く刺激する投稿や意見に即座に反応せず、「本当にそうか?」と自問する。一次ソースや複数メディアの確認、信頼できるファクトチェックサイト(例:日本ファクトチェックセンター)の活用を習慣化する。
・メディアリテラシーの継続的向上
政府の「外国による偽情報等に関するポータルサイト」などで公開されている事例や対処法を定期的に参照し、AI生成コンテンツの特徴(微妙な不自然さ、過度な一貫性)を学ぶ。
・SNS利用時の自己防衛
フォロー・アカウントの多様化、エコーチェンバー回避、感情的な拡散を控える。AI生成の疑いがある画像・動画にはウォーターマークや逆画像検索を試す。
・社会全体への働きかけ
身近な議論で「情報源の確認」を促し、家族・友人との対話を通じて免疫を共有する。
②私好みの対策
私が上記のうちで特に良いなと思ったのは、家族・友人との対話です。
対話とは、単に意見を交換する行為ではありません。
それは、自分の思考がどこまで自分のものなのかを確認する作業でもあります。
SNS上では、同じ意見を持つ人の投稿ばかりが流れてくる「エコーチェンバー現象」が起きやすいと言われます。
気づかぬうちに、自分の考えが“多数派”であるかのような錯覚に包まれてしまう。
しかし実際に顔を合わせて話してみると、同じ出来事でも全く異なる受け止め方が存在することに驚かされます。
この「違和感」こそが重要なのではないでしょうか。
影響工作が目指すのは、私たちの認知を静かに均質化することです。疑問を持たず、考え直さず、ただ流れに乗る状態へと誘導すること。その逆にあるのが、対話です。
対話は、ときに面倒で、衝突も生みます。しかし、自分とは異なる視点に触れたとき、人は初めて「考え直す」という行為を行います。考え直すことができる限り、完全な洗脳は成立しません。
もしAIが私たちの不安や怒りに寄り添う文章を生成できる時代であるならば、私たちはそれ以上に、人間同士で確かめ合う必要があるのかもしれません。孤立は最も操作されやすい状態です。対話は、その孤立を破る行為です。
社会的な断絶のリスクを抱えている私だからこそかもしれませんが、自分自身の異常に気づくためにも他者との関わりは非常に大切だと考えます。
孤立しているときほど、極端な意見は心地よく響いてしまうものです。
③結論:生きることは、考えること
政府・プラットフォーム事業者による検知技術強化や法整備が進むことを期待する一方で、私たち一般人の「気づき」と「慎重さ」が最後の防波堤となるでしょう。
AIの進歩が脅威である一方で、同時に検証ツールとしても活用可能である点に希望を見出したいところです。
そして影響工作というワードを認識し、抗う意識を持つこと自体が、すでに有効な抵抗の一歩となりうると思います。
私たちは「スパイ天国」の住人ではなく、情報戦の主体として自らを守り、考え続ける主体でなければなりません。
「生きることは、考えること」、これだけは声を大にしたいところです。
民主主義は制度ではなく、思考をやめない人の集合体で成り立っています。
それが、健全な民主主義を維持する唯一の道だと考えます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました🐻
悪性ナラティブやフェイクニュースについて考えた記事はこちら
参考:【内閣官房】外国による偽情報等に関するポータルサイト
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nisejouhou_portal/index.html