「嘘は言っていないけれど、何かがおかしい」――そんな違和感の正体が、この言葉に隠されているかもしれません。
1.またまた見知らぬ言葉が出現。悪性ナラティブ
【ニュース概要:2/6(金) 12:37配信|All Nippon News Network(ANN)】
衆議院選挙を前にSNS上でフェイク情報が広がる中、専門家は新たな手口「悪性ナラティブ」に注意を呼びかけている。
これは実際に起きた出来事を文脈から切り離し、加工・誤解を招く形で悪意を持って拡散する言説で、怒りや恐怖を煽りやすい特徴を持つ。
例として、JICAの「アフリカ・ホームタウン構想」では、現地の暴動写真に誤った地域名を重ね「移民が押し寄せる」との誤情報が拡散。抗議活動が起き、構想は撤回された。
専門家は選挙時の拡散が民主主義を揺るがす恐れがあると指摘し、情報は新聞・テレビで確認するよう促している。
本記事について
最近、ニュースやSNSで「悪性ナラティブ(Malignant Narrative)」という言葉を耳にするようになりました。一見難しそうですが、その実態は私たちが長年目にしてきた「ある手法」の進化形かもしれません。
※この記事は、現代の情報社会における「情報の加工」と「拡散」の仕組みを解説したものです。
2.悪性ナラティブ(Malignant Narrative)の意味とは?フェイクニュースとの違い
悪性ナラティブとは、単なる嘘(フェイクニュース)ではありません。「実際に起きた事実」の一部を切り取り、本来とは異なる文脈で繋ぎ合わせることで、意図的な誤解や恐怖(ナラティブ=物語)を植え付ける手法を指します。
ベースに「事実」があるため、完全に否定することが難しく、見た人が「これは本当のことだ」と信じ込みやすい特徴があります。
3. 「それってオールドメディアの偏向報道と同じでは?」
この説明を聞いて、「テレビや新聞が昔からやってきたことじゃないか」と私は感じました。実際、その構造は非常によく似ていますが、背景の文脈を考慮する必要があります。
- 印象操作: 都合の良い発言だけをカットしてつなげる。
- チェリー・ピッキング: 自分の主張に有利なデータだけを提示する。
- アジェンダ・セッティング: 特定の話題だけを繰り返し報じて世論を誘導する。
街頭インタビューで1時間話した中から、番組の意図に沿った数秒だけが切り取られる。これも一つの「悪性ナラティブ」の雛形と言えるでしょう。
4. 従来の手法と何が違うのか
構造は同じでも、SNS時代の「悪性ナラティブ」には、これまでの偏向報道とは異なるリスクがあります。それは拡散の主体とスピードです。
下記は「一般的な意味」での比較です。両者の本質的な違いを、4つの項目で整理しました。
| 比較項目 | オールドメディアの偏向 | SNSの悪性ナラティブ |
|---|---|---|
| 発信主体 | テレビ局・新聞社(組織) | 匿名個人・インフルエンサー |
| 透明性 | 放送法などの規制がある | 誰が何の目的で流したか不明 |
| 拡散の仕組み | 放送枠や発行部数による | アルゴリズムにより「信じたい人」へ直撃 |
| 修正の可否 | 訂正放送が可能 | 一度拡散されると収拾不能 |
これを見て、素直でない私は、ここで「だからテレビや新聞は安心だ」と結論づける気にはなれません。
放送法やBPO(放送倫理・番組向上機構)が機能している様子は、日常生活で目の当たりにする機会がほぼないからです。
SNSを「いったん拡散されると収拾不能」とありますが、私はそうは思いません。大衆が発信源であるならば、訂正もまた大衆の手で行うことが出来る、私はそう信じています。
大衆主導の訂正メカニズム(例:ファクトチェックコミュニティ)の可能性も指摘されます。
これにより、両者のリスクをバランスよく評価できます。
オールドメディアとSNSを単純に同じ扱いにするのは暴論かもしれません。しかし、いずれも「意図をもって発信されている」ことは常に意識していきたいと思います。
5.AIによる悪性ナラティブ?ハルシネーションとの違いは?
なお、悪性ナラティブの出典と初出時期をAIに確認したところ、嘘に嘘を重ねられて、大変な思いをしました。
ついつい私は「AIのハルシネーションも悪性ナラティブと同じではないか!」と思わずにはいられませんでした。
両者の決定的な違いは、「意図的な悪意の有無」と「発生のメカニズム」にあると言われています。
| 比較項目 | 悪性ナラティブ (Malignant Narrative) | ハルシネーション (Hallucination) |
|---|---|---|
| 定義 | 特定の意図(世論操作・攻撃)を持って構築された「物語」 | AIが事実に基づかない情報を「もっともらしく」生成する現象 |
| 意図(悪意) | あり。相手を騙す、扇動する目的 | なし。確率的な計算ミスによる錯誤 |
| 発生源 | 人間、または悪意あるAI利用者 | AIモデル(LLM)の構造・データ不足 |
要約すると、悪性ナラティブは「世論を操るための戦略的デマ」であり、
ハルシネーションは「AIの構造上の仕組みから生まれるうっかりミス」です。
しかし、私の個人的な見解になりますが、企業がAIの信頼性を高めるために、設計上ハルシネーションがある程度許容されているのではないか?という疑念も浮かびます。
そういった観点では、ハルシネーションもまた企業による物語(ナラティブ)が含まれていると言えるのではないでしょうか?
一部の専門家はAI設計のトレードオフとしてハルシネーションを指摘しており(参考:OpenAIの技術報告書)、これを「意図的な物語」と見なす議論もあります。この視点はさらなる検証を要します。
6.悪性ナラティブという言葉の出典と初出時期
「悪性ナラティブ(malign narrative)」という表現は、2019年に英国議会へ提出された公式資料の中でも確認できます。
2018年の事件(ソールズベリーでの毒殺未遂事件※等)に関連して「悪性ナラティブ」という言葉が使われていることが分かりました。
※ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんが、旧ソ連が開発した猛毒の神経剤「ノビチョク」により毒殺されかけた事件
出典:英国議会(UK Parliament)提出資料|2019年当時の英国外務・英連邦省(FCO:Foreign and Commonwealth Office)が提出した公式な書面証拠(メモランダム)
記述:「Russian state-controlled media... created more than 40 false and malign narratives related to Salisbury.(ロシア国営メディアは、ソールズベリー事件に関して40以上の虚偽かつ悪性なナラティブを作成した)」
(※原文では「malign narrative」と表記されていますが、一般には「malignant narrative」とも表現されます。)
URL:https://committees.parliament.uk/writtenevidence/101613/pdf/※PDFの3ページ目(24項)に記載があります。
7.おわりに:情報の「物語」を見極める
これは特定の誰かに向けた警告ではありません。情報があふれる時代を生きる以上、私たち全員に関わる話だと思っています。
オールドメディアにせよ、SNSのインフルエンサーにせよ、発信者は常に何らかの「物語(ナラティブ)」を組み立てて提供しています。
大切なのは、それが「誰にとって都合の良い物語なのか」を一度立ち止まって考えることです。
強い怒りや不安を感じさせる情報に出会ったときこそ、その背景にある意図を疑う力(メディアリテラシー)が求められています。
情報に対して常に気を張っていては疲れてしまいます。
情報があふれ、否が応でも情報が私たちに流れ込んでくるのが現代社会です。
例えば自身の生命や健康、財産に関する情報は重く扱い、芸能人のゴシップなどは話半分に聞き流すなどといった「情報の取捨選択」も、今後はより一層求められていくのかもしれません
ここまで読んでいただき、ありがとうございました🐻
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